2007年 7/15 アルプススタンド
アルプススタンド
正面ゲートで入場券買って一塁側スタンドに来て、
という妻からの携帯電話に、
階段を駆け上がるのももどかしく、
急ぎ武南高校の応援アルプスへの出口をめざす。
7月13日県営大宮球場で、
次男聖人達高校3年生の甲子園最後の挑戦、
埼玉県予選の初戦が行われているのだ。
アルプススタンドに出て、
とっさにスコアボードで試合の状況を確認する。
試合は3回表の八潮高の攻撃まで進んでいる。
なんと、1回表の相手だけに1点が入っている。
マウンドに目をおろすと、
背番号10番の左の市川君が投げているはずなのに、
はやくも2年の佐藤君が投げているではないか!?。
そして武南高校の選手ボードの2番、
つまり捕手を見たら、
やはり淺子君で聖人は出ていない。
出口傍のイスに腰掛けると、
4番ファースト木村君のお父さんが、
すぐに隣から声をかけ状況を教えてくれる。
先発の市川君が乱調で、
四球に死球それにボークと、
無安打で一点を献上し、
計5個の四死球を与えて、
3回途中から佐藤君に交代したとのことだ。
この初戦で武南高校の新井監督は、
思い切った作戦に出た。
第2戦に予期される強豪校のために、
エースの猪俣君と正捕手の聖人を温存し、
初戦は市川・佐藤両投手及び淺子捕手でいくと、
2週間ほど前に選手に言い渡したのである。
初戦の八潮高は、
この春の県大会ベスト8、
今回もシード高にもかかわらずである。
この初戦は、
運良く県立大宮球場で行われるため、
埼玉放送で完全実況中継される。
実は昨年、武南は強豪高を破ってベスト16まで進んだが、
この時に相手高が前の試合でTV中継されたのをビデオ撮影しておき、
新井監督が徹底的に戦力分析した。
そしてこれに基づき対策を練り、
それが見事にあたって勝てた。
この教訓から、
逆に相手にデータを取らせないという作戦なのである。
とはいうものの、そこは高校野球。
一戦一戦が文字通り運命を決し、
負ければ万事休すである。
監督の決定を聞いた妻が、
もし初戦で負けたら、
聖人は、
武南で捕手にまで変えさせられたのに出番なく終わるよね。
レフトの練習は最近はもうやってないし、
なんかむなしいね、
と電話で伝えてくれていた。
その一方、
聖人は、
俺が出るような時は、
武南が負けるときだからね、
絶対勝つよ、といたって明るいとのことであった。
状況をつかんだところで、
アルプススタンド全体を見回したら、
にわかに武南の逆転勝利の確信が湧いてきた。
昨年と今年では、
武南の応援席の様子が全く変わっている。
まず、
私の隣にすわるべき妻を目でさがしたが、
どの席にも座っていない。
これまでは、父兄席で妻と並んで応援していた。
応援席をよく見ると、
武南のお母さん方は、
紺に黄色い漢字で武南とイニシャルの入ったお揃いのTシャツに、
青の応援メガホンを両手に持ち、
横数列になって立ち上がって武南高の生徒と一体になって応援している。
OBのお母さん方までその後ろに並んで一緒になって応援している。
妻も最前列の右から二番目で応援している。
妻からメールの返事がこないはずである。
その武南の応援アルプスは、5つに区分できる。
前列中央にベンチに入れなかった野球部員。
その右隣に武南名物のチアガール。
さらにその右隣にブラスバンド。
野球部員の後方にさきほどのお母さん軍団。
ここまでが統制された素晴らしい応援をおこなっている。
そのまわりを、
新たな状況の変化に適応できないお父さん達が、
これまで通りバラバラに陣取って各個に応援している。
まあ、父親いや男というのはこういうものだ。
自分の殻がなかなか割れない、生態的宿命なのだ。
一方、母は強しで、
環境に見事に順応し、
一丸となって息子達を応援している。
家庭の主役が誰か、
図らずも教えているようだ。
とにかく素晴らしい応援である。
そして、これらの臨時応援団を見事にオーケストラの指揮者の如く、
試合の流れに合わせてリズムよく取り仕切っているのが、
野球部3年の坂本君である。
武南が攻撃のときには、
応援席の武南野球部員のパフォーマンスをまとめ、
チアガール、ブラスバンドに指示し、
これに合わせてお母さん軍団が元気よく応じている。
実は、背番号発表・授与の日、
坂本君は悔し涙で泣いていたそうである。
20番までの背番号をもらえない選手は、
グランドに立てずスタンドでの応援しかない。
この日のために頑張ってきた3年生で、
背番号をもらえない選手にとって、
ある意味この時点で高校野球は終わったともいえる。
今年の武南は、
2年生投手の佐藤君のほか、
19名は3年生だった。
それだけに坂本君は、
悔しくて涙を流したに違いない。
いや、残りの3年生全員、
泣いたに違いない。
その発表から僅かしか経ってないのに、
坂本君は臨時応援団長となって、
ベンチ入りできなかった部員だけでなく、
武南応援席のみんなを見事にまとめて素晴らしい応援をしている。
残りの3年生も、
素晴らしいパフォーマンスの主役になって、
下級生部員を引っ張っている。
涙した発表の翌日から心を切り替え、
皆で応援パフォーマンスなど考え練習したに違いない。
まるで昨年とは別の高校のようである。
グランドでプレーする選手達も、
スタンドで一生懸命応援する仲間の気持ちが痛いほどよくわかるので、
彼らの分まで絶対に勝ちたいのだ。
7回には、エール交換で応援団の生徒が校歌を歌う。
相手側の校歌斉唱の時、
お父さん・お母さんの皆さんも、
全員で立って相手のエールに答えてください、
という坂本君の大きな呼びかけに全員が立って応じる。
相手の応援席には、30名ほどの父兄と生徒しか見られない。
結局、どの野球紙も相手高の勝利しか予測してない中で、
3-1の見事な逆転勝ちであった。
安打も、相手高2安打に対し、
武南は好投手相手に10本。
ただし、相手高に四死球を12個も与えてしまった。
それを再三の好守、
いや応援団の団結力が、
最少得点に抑え、
素晴らしい逆転の意識の場を形成したのだ。
試合後、
入学時からともにバッティングセンスを買われレギュラーとして活躍している
3番ライトの橋本君のお母さんが、
本当に勝って良かったね、
バッティングのいい聖人君がこのまま出れなかったら、
小学校から野球をやってきた野球人生の意味がないものね、
と声をかけて下さる。
監督に、
おめでとうございますと声をかけると、
にっこりと、
次は池田・猪俣で勝負ですよ!
グランドだけでなく、
アルプススタンドにも様々な人間模様を綾なして、
夏の甲子園のドラマが綴られていく。
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